エチュード〜さよなら、青い鳥〜
広宗は、舞台の上の初音に目をやる。

ガラスの向こうに、舞台がよく見える。
演奏は、アリオン特製のスピーカーから臨場感たっぷりに聴こえた。 
今の初音には、プロコフィエフの世界だけ。おそらくは、涼音のことさえも頭にないだろう。


「初音は、なんて良い顔をして弾くんだろうな。ピアノがあれば幸せなんだなぁ。聴いているこちらまで幸せになる」


思わずつぶやいた広宗の足元。
ガラスに両手をくっつけて食い入るように舞台を見つめていた涼音が、広宗のスラックスをツンと引っ張った。


「マーマ」


涼音はピアノを演奏する初音を指差して、広宗にまるであれがママだと教えているようだ。


「あぁ。そうだな。涼音のママだ。スゴイな、ママがわかるのか」


広宗が褒めてやると、涼音は理解したのかキャッキャと喜んでガラスにおでこをくっつけながら舞台を見つめた。


「普段からピアノを聴いて育っているせいか、演奏が始まったら落ち着いたわ。すごくいい子ね、涼音ちゃん」


そんな涼音を、恵が目を細めながら愛おしげに見守っていた。


< 255 / 324 >

この作品をシェア

pagetop