エチュード〜さよなら、青い鳥〜
そして。

ついに、親子での共演が始まる。


初音は息を呑むようにして見守った。


互いのクセも性格も知り尽くしているのだろう。自由なマーシャの音を、ヘンリーが上手くあしらう。
ヘンリーの解釈に合わせて、マーシャがタッチを変えている。
クラウゼ教授が苦手な箇所はマーシャが上手くカバーし、オーケストラがピアノに寄り添う。


まさに、神がかりの演奏。音の粒がキラキラと会場に降り注ぐ。会場にいる全ての人に幸せな時間が流れていく。



ーー私の求める究極の音楽かもしれない。



親子の最初で最後かもしれない競演に、初音は感動して体が震えた。


マーシャ達は、そもそも憎しみあって別れたわけじゃない。互いを思いやって、最善の道を選んだだけだ。
そしてそれぞれに歩んだ道の先は、神の領域だった。

今はどんなに離れていても、かつて共に過ごした時間は共通の思い出となり、独特な距離感を作っている。
それに、夫婦が別れて他人になっても、二人の間の子供にとってはどちらも親であり、家族。血の繋がりは、決して断つことが出来ない絆。


そんな三人を見ていると、初音はすでに終わったことだと、振り返らないと決めたはずの過去を思いだして、胸が締め付けられる。

まだ、全ては終わったわけじゃない。わずかに残った涼音との親子の絆に、涼は気づいてさえいない。
このわずかなつながりで、涼のことを完全に振り切れていないことを改めて感じた。


最高の音楽は、初音の心を揺さぶった。
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