エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「ディアナが行ったのなら、それで充分だろ。私は病院なんて行かない」

待っていた初音に、舞台から戻ったマーシャは開口一番そう言った。

「もしも、ということもあるでしょ?」
「もしもって何だい。ハインリヒがくたばったところで、大変なのは娘であるディアナだけさ。私は別に。
あぁ、疲れた。スズネに会いたいねぇ」

先ほど情感たっぷりに美しく切ないメロディを奏でたピアニストとは思えない、太々しい態度。あんな『別れの曲』を弾いて、ハインリヒに何の想いも抱いていないなんて、よく言えたものだ。

初音は、肩をすくめた。マーシャの性格はよく知っている。意地っ張りだけど本当は情に厚く、愛情表現はピアノだけでしか出来ない不器用な人。


「あ、ちょっと、ハツネ⁈」


初音は、マーシャの筋肉質な大きな手をぎゅっと掴んで歩き出す。


「私は通訳しなくちゃ。マーシャ一人じゃ日本語わからないんだから、なんにも出来ないでしょ?日本では私の方が有利なんだからね、マーシャ」


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