エチュード〜さよなら、青い鳥〜
第6章 再生

あなたに届きますか


光英大学病院では年四回四季ごとに、入院中の患者や患者の家族のために、ボランティアがコンサートを開催していた。

涼は前回の春のコンサートから、スタッフとして様々な準備に携わっている。前回は音大生サークルの弦楽四重奏だった。
今回は、たまたま帰国していた海外留学中のピアニスト。病院関係者の知り合いらしい。

エントランスホールにグランドピアノを設置。来場者は毎回100名以上となるため、聴こえやすいように配置も考える。
また、どうしても来場が出来ない入院患者の為に、院内放送でライブ配信もする。仕事は多岐に渡り、涼は他のスタッフとともに忙しく準備を進めていった。

「ピアニストの方、リハーサル入ります。院内放送の担当は、渡辺さんと四辻さんでしたね?調整お願いします」

院内放送用の機器がある部屋からは、ピアノは見えない。涼は現場から送られてきた音を調整して院内にBGMとして流す準備をする。

リハーサルとして送られてきたのは、ショパンの『革命のエチュード』だった。ずいぶんとスピードが速く勢いがある。


ーー上手いな。


「四辻さん、思ったより音量が出ますね。もう少しマイクの位置を調整したほうがいいです。
「わかりました」

一緒に仕事をする渡辺という女性はベテランだ。彼女の指示に従いながら、涼はリハーサル現場へと足を運んだ。



ーーえ…?



涼は、ピアノのそばに置かれたマイクに近づこうとして、足を止めた。

自分の目を疑いたくなる。何度かまばたきをしてみた。だが、間違いない。間違いなく、そこでピアノを弾いていたのは、初音だった。
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