エチュード〜さよなら、青い鳥〜
拍手の音が、鳴り止まない。


初音は、黒く光るピアノの隣に立って観客席を見つめた。

期待に満ちた無数の瞳が、熱気となって初音を見ている。涼音の笑顔も見えた。


だが、その中に彼の姿はない。


それでも、きっと会場のどこかで聞いている。



アンコールに応える為ピアノの前に座ると、ピタリと拍手が止まった。



誰より彼に聞いてほしい。
一度も褒めてくれなかった、ショパンのエチュード作品10第3番ホ長調。

彼が一番好きだと言っていた『別れの曲』。


哀しみを知った。寂しさを知った。
別れを知った今こそもう一度あなたに聴いてほしい。



ーーさぁはじめましょう、ショパン。
私のところに降りてきて。
私の想いを、音楽で伝えたいの。
あなたの作った美しく切ないエチュードで…











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