エチュード〜さよなら、青い鳥〜


「四辻さん、マイクの片付けをお願いします。こっちは私がやるから」

演奏が終わり、院内放送も終了し、片付けが始まる。渡辺は慣れた手つきでテキパキと片付けを始めた。だが、会場からはずっとアンコールを求める拍手が聞こえていた。


「待って下さい、渡辺さん。
会場から聞こえる拍手の音が止まない。もしかしたら、アンコールに応えるかもしれません」


初音なら、きっと。涼には確信があった。


「あ、本当だ。四辻さん、アンコールがあるか、向こうのスタッフに確認してきてください」


涼は、渡辺に機器を任せ、会場のスタッフの元へ向かった。やはり、アンコールを依頼しているから片付けを少し待って欲しいと言われた。その旨を渡辺に伝える。


「わかりました。じゃ、こっちは私に任せて。時間がないから四辻さんは会場で、アンコールが終わり次第、片付け始められるようにスタンバイしていて下さい」


渡辺の指示に従い、涼は会場の裏側にまわる。そこにいた他のスタッフは困ったように会場を見つめていた。涼も彼らの後ろから会場を覗き込む。


「誰一人帰らないんです。こんなこと、初めてですよ」

初音を呼ぶアンコールの声と拍手の音が、異様な熱気となって溢れ出すように聞こえる。


そこへ颯爽と初音が現れた。


「アンコール、行きます」


涼の背中をすり抜けるように、初音が会場へと出て行った。


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