エチュード〜さよなら、青い鳥〜
ーー私と涼も、そうなれるかな。


彼は今日も忙しそうだ。片手に手帳、片手にペン、耳に当てた電話を肩で押さえながら、何やら話をしている。


元々素質があったのか、初音のマネージャーとしての仕事は、かなりサマになってきた。おかげで初音もピアノだけに集中することが出来る。

涼音の父親としても、満点だ。子育てに協力的で涼音もよく懐いている。


ただ一つ、初音との距離だけは、マネージャーとピアニストのまま。


一緒に過ごす時間が増え、初音にも変化が起きていた。心の奥底で燻っていた恋心が、少しずつ大きくなっていることに、気づかずにいられない。

涼は、昨日のようにヤキモチを焼いてくれるくらいには、初音のことを女性として見てくれているとは思う。

だけど、どうやって距離を縮めたらいいのか、わからない。



彼は今日も眉間に深いシワを刻んで、手帳と睨みあっている。

せっかく一緒の空間にいても、彼はちっとも幸せそうじゃない。マーシャもヘンリーも涼音も、和やかに幸せオーラに包まれた時間を過ごしているのに。
< 319 / 324 >

この作品をシェア

pagetop