エチュード〜さよなら、青い鳥〜
初音は掴まれた腕を引く。涼が体勢を崩したところに、ぎゅっと抱きついた。


「好き」


やっと出した声はかすれていた。


「俺は、好きじゃない」


涼のセリフに初音の体がビクリと揺れる。体から力が抜けてしまう。
次の瞬間、体が折れてしまいそうなほど、力強く抱きしめられた。


「好きなんてもんじゃない。愛してる。愛してるなんて言葉でも足りない。初音は、俺の全てだ」




「パパ!ママを、なかせちゃダメ!」

初音が思わずこぼした涙を見て、涼音は大声を張り上げた。

「違うの、涼音。ママ、嬉しくて。おいで、抱っこしてあげる」

涼音は読みかけの絵本もそのままに、初音に駆け寄った。初音は優しくふわりと涼音を抱き上げる。


涼音が開いたままの絵本には、青い小鳥の絵ととドイツ語でこう書かれていた。
『本当の幸せは手の届く身近なところにあるのだ』


涼は、涼音ごと初音を抱きしめた。


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