エチュード〜さよなら、青い鳥〜
この二人、アリオンが協賛しているからといって、初音に有利に働くと言いたいらしい。


四辻は、目の前に置かれたビールのグラスに口をつける。


アリオンの会長は、公平無私な人物だ。孫が出場するからといってコンクールの成績に何かしらの操作をするとは考えられない。
彼らはそんなことも知らずに、初音が出場するというだけで、まるで出来レースだとでも言わんばかり。


「初音が出る必要ないと思わないか?なんなんだよ、急にさ。金ならあるし、留学したいならいくらでも行けるだろ?」
「やっぱり、箔をつけたくなったんじゃない?
ほんと、迷惑よ」


彼らの会話に、反吐が出そうだ。
純粋に、音楽で勝負すればいいのに。どうして、“アリオンの丹下”なら贔屓されるとか、下衆の勘繰りをするのだろう。


かわいそうに。
彼女は、いつもこんな風に見られているのか。



『何もご存知ないから、そんな事が言えるんですよ。
私は、丹下初音です。
私には、常に『アリオン』がつきまとう。
優勝すれば『アリオン』への忖度だとか、裏から手を回したとか言われ、賞を逃せば『アリオン』の娘のくせに大したことないと嘲笑される。
もう、ウンザリなんです』


あの面接で、苦しげな顔で告げた彼女の言葉の真意を、今、改めて知る。
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