エチュード〜さよなら、青い鳥〜
力強い和音の同じ音の連打で始まった。

キラキラと音の粒が綺麗に揃って、美しい音色が響く。
最初の音から、あっという間に初音の作り出すピアノの世界に引き込まれる。


これだ。と四辻は思う。
聴きたかったのは、これだ。



『ヴァルトシュタイン』はCDで聞いたことがあったが、疾走感のある曲だと思ったくらいで特別記憶に残っている曲ではなかった。

だが、今目の前で繰り広げられている演奏は、最初から息をのむほど素晴らしい。
テンポは快速。同じリズムを繰り返したり、呼び合うような左手と右手の掛け合いがあったりすることによって、高揚感が湧き起こってくる。



10分ほどの演奏が終わると、四辻は思わず拍手をした。


「すごいな、やっぱり、すごい!『ヴァルトシュタイン』、今の演奏で持っていたイメージが変わりました。感情を爆発させた次の瞬間には冷静になったり。喜びの中に不安がよぎったり。
わずか10分の間にドラマがありました。いい曲です。あなたにピッタリだ」


「…ありがとうございます。私、この曲好きで。
コンクールの課題曲の中に見つけて、即決でした。でも、まだまだです。もっと、この曲の世界を色濃いものにしていかないと…」


そう言うなり、初音は自分の世界に入っていった。
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