エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「ビールでも飲むか」

白を基調とした広いリビング。四辻に、お洒落な椅子に座るように手で示しながら、広宗が言った。

「あ、いえ。自分はもうお暇しますから」

ふと見上げた時計は9時を指そうとしていた。
この家に来てからすでにニ時間以上過ぎていることになる。

「四辻くんと一緒に飲みたいんだよ。恵(めぐみ)、ビール出して」

恵夫人が、冷蔵庫から冷えた瓶ビールとグラスを持ってきてくれた。ジャージからシンプルな室内着に着替えている。

「初音が人を連れてくるなんて、久しぶり。
ましてやピアノを聴いてもらうなんて、高校生以来じゃないかしら」

恵はビールをグラスに注ぐと、用意してあったカルパッチョやサラダなどの料理を四辻の前に置いた。

「お友達も、最初は珍しさから遊びに来てくれるんだけど、すぐに来なくなっちゃうの」

わかる気がする。桁違いの裕福な家庭に触れ、自分が置かれた環境との差に愕然とする。そして、うらやみ、卑屈になるのだろう。

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