エチュード〜さよなら、青い鳥〜
そう言って初音は梅田をヒラリとかわした。
梅田は、今まで何度も言葉を変えながら、初音に声をかけている。
目的はカラダ。『丹下初音と寝た』という事実が欲しいだけだ。いや『アリオンの丹下』初音と、と言うべきか。
初音の周りには、とかくこの手の輩が多い。


「あれ、初音じゃん」


たまたまそこへ通りかかった友人、竹本大輔(たけもと だいすけ)が初音に声をかけた。

「あ、大輔」
「ちょーどいいや、これから萌(もえ)達と飲みに行くんだけど、どう?」
「どこ?」
「“ソレアード”だよ。今日は、ショパンの日。先輩のジャズバンドが来るんだ。飛び入り参加出来るし、行こうぜ」


有名なミュージックバー。音大生もよく生演奏をするので、初音も馴染みの店だ。
そこは日替わりで“ジャズの日”とか、“モーツァルトの日”などのテーマを設けていて、現役生も卒業生ももちろん音大生以外の音楽好きも集まって、セッションする。


「ショパンかぁ。いいね、行く。じゃ、梅田バイバイ」
「…ちっ」


梅田が小さく舌打ちをした。しっかり聞こえている。


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