エチュード〜さよなら、青い鳥〜
初音は控室にいても落ち着かず、手にスマホを持って廊下に出た。
公の場に出るからには、『アリオン』の丹下一族として恥ずかしくない演奏をしなくてはならない。予選通過して、本選で受賞しなくてはならない。
だけどライバルは、数々の輝かしい実績がある梅田や萌だ。他の出演者だって、腕に覚えがある人ばかりのはずだ。
怖い。人と比べられることが怖い。
『アリオン』の丹下のくせにこの程度かと嘲笑され、『アリオン』の丹下だからこの程度でも予選通過なのだと貶されることが怖い。
でも、ここは、乗り切らなくてはならない。
ずっと逃げてきた、怖がってばかりの弱い自分を奮い立たせて、信じて前へ踏み出すんだ。
これでダメなら、潔くピアノにけじめをつければいい。
でも。
やっぱり怖い。
暗譜が飛んでしまったら、どうしよう。
途中で真っ白になって手が止まったら、どうしよう。