エチュード〜さよなら、青い鳥〜
四辻の言葉が、初音の折れそうだった心に真っ直ぐ刺さる。

そうだ。丹下の名だとか、コンクールの結果とか、萌や梅田のことなんて、どうでもいい。
ベートーヴェンと一緒に音楽を奏でる。
そんな喜びの時間が待ってる。ただ、ベートーヴェンと向き合えばいい。
そうすればきっと自分のピアノで、誰かと幸せを共有できるはずだから。




スタッフが初音を呼びに来た。
電話を切り、初音は一つ大きく息を吸った。

ベートーヴェンをイメージしてデザインしてもらった、つややかな黒のシンプルなドレスに触れる。
指に絡む極上の手触りに、心がほどよく高揚する。
演奏の直前にドレスに触れて、気持ちを高めていくのは幼い頃からの習慣だ。




ーーさぁ、はじめましょう、ベートーヴェン。
私のところに降りてきて。
喜びも不安も、想いの全てを音楽にのせて、大切な人に捧げましょう。

















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