エチュード〜さよなら、青い鳥〜







「あ、こんなところにいた。初音!」


ピアノを弾き終えて、控え室に戻ろうとしていたところに聞き慣れた父の声がした。
予選は見に行かないと言っていた父が、廊下の向こうから歩いてくる。
しかも、一人じゃない。



「一条のおじ様⁈」
「久しぶりだな、初音」


父と一緒だったのは“世界の一条”と称される、日本経済の中枢を担う一条グループ総帥一条拓人。父の学生時代からの先輩で、生まれた時から初音を可愛がってくれる。
毎日分刻みのスケジュールをこなして、多忙な一条が、ピアノコンクールの一次予選に来ているとは思いもしなかった。

初音はあまりに嬉しくて一条に駆け寄ると、思わず抱きついた。

「来てくれたの?」

「丹下から、初音が久しぶりにコンクールに出るって聞いてね。やっと初音のピアノが聴けた。待ってたよ。
最高のベートーヴェンだった。
素晴らしかったよ」

「お父さん、聞いた?一条のおじ様に褒められた。嬉しい!おじ様忙しいのにありがとう」


< 71 / 324 >

この作品をシェア

pagetop