エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「社長に、この場に残るように言われたよ」

「そう。お仕事、大丈夫なの?」

初音を会場に送るなり、急いで会社に戻ったはずだ。そんなに簡単な仕事ではないだろう。何しろ、休みの所を呼び出すくらいなのだから。

「急な仕事って、会長と社長の運転手を務めることだったんだ。社長が会長を残してどこかに行ってしまったから、会長と待ってたんだ。
いやぁ、会長とはびっくりするくらい話が合ってさ。ピアノ談義に花が咲いたよ」

「お父さんったら…。おじい様まで、運転手ならちゃんといるのに、四辻さんを呼び出すなんて」

「お二人とも、会社に内緒で出て来たから。しょうがない。それだけ、久しぶりのコンクールに出る君が心配だったんだよ」

「聴いてくれた?」

「もちろん。鳥肌が立つほど、素晴らしい演奏だったよ。最高の時間をありがとう」


いつもと違う。四辻に何かわからないが違和感を感じる。
それが、もしかしたら先程の演奏に関わることなのかもしれないと、思う。

「ホント?何か変よ、四辻さん」

「あ、いや…」

図星だったのだろう。四辻は言葉を濁し、初音から顔を背けた。

「どうしたの?ピアノに気になることあった?」
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