エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「うん。いい出来だ。何か吹っ切れたみたいだな、丹下。あとは…」

弾き終えた初音に、杉田がいくつかアドバイスをする。初音はアドバイスに従い、微調整をしていく。


「やべぇ。鬼気迫るもんがあったぞ。初音、凄すぎる」

初音の調整が落ち着くと、大輔がやっと大きな息を吐いた。ずっと息を呑むようにして圧倒されていたのだ。

「そう?やっぱり、コンクールに出ると欲が出ちゃって。本選でオーケストラと演奏したいなって思ったの」

さらりとそう言いのける初音は、淡々としたいつもの彼女だった。一方、大輔は興奮冷めやらない。

「杉田先生、これ、いけるんじゃないですか。本選。確か、ピアノ協奏曲を交響楽団と協演するんですよね、大丈夫なんですか?」

その問いに杉田は、大きく頷く。

「大丈夫。準備はちゃんと出来ている。いつ、丹下がコンクールに出ると言ってもいいように、この四年間準備してたから。
丹下は、渋々だったけれど」

初音は、肩をすくめた。杉田はこの四年間、嫌がる初音に、コンクールで課題曲となりやすい楽曲をどんどん取り組ませた。一次予選のヴァルトシュタインも、その一つだった。

「先生には、感謝してます」
「おー、感謝しておくれ。じゃ、ショパンのエチュードもやろう。
おい竹本、お前、時間いいのか?」

杉田が時計を指差す。大輔は時間を見て大焦りだ。

「そうだった、バイトだ!あーでも、初音のショパン聴きたいっ」
「二次予選で聴いて、大輔」

バタバタとリュックに荷物を詰め、帰り支度をする大輔を尻目に初音はピアノに向かう。


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