エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「…なるほど。恋知らずの初音がついに恋したか」

ジュンは腕を組み、感慨深そうにうんうんと頷いた。

「私を丹下初音だと知らずに、ピアノを褒めてくれた人なの。
もっと聴いてもらいたくて、褒めてもらいたくて。だから、逃げていたピアノとキチンと向き合うことにしたの」


「いいじゃない!ついに初音にも王子様が現れたってことね。
初音は恋愛についてはドライだから、心配してたのよ。好きな人ができるかしらって。
まぁ、『丹下』目当てのクズ男ばっかり群がってくるからしょうがないけど」

「私の男の基準は、一条のおじ様とお父さんだしね」

「あはは、極上の男たちに見慣れて目が肥えてるなんて贅沢ね。そんな初音の心を掴んだなんて、どんな男かしら。今度紹介してね」


ジュンは、親とも違う、友達とも違う、初音にとって頼れる人生の先輩だ。
幼い頃から、ピアノ用の衣装はもちろん何かあれば洋服を仕立ててもらっていた。その度に悩みを相談したり、日々の出来事を報告したり。
多分、親より祖父に近い年齢(絶対に教えてくれないけれど)のジュンは、初音の悩みを易々と受け止めてくれる。人生経験の豊富さで、アドバイスをくれたり、共感してくれたりしてくれた。

ジュンの過去はあまり知らないが、ジュンと話をすると不思議と自信が湧いてくる。

ーージュンは魔法使いなんだ。

父やあの一条さえも、ジュンを頼りにしている。みんなジュンを魔法使いと比喩していた。









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