エチュード〜さよなら、青い鳥〜
ジュンが部屋に置いてあったトルソーに着せてあったドレスを指差した。
「見て。動きやすいように肩は全部出したわ。ミキちゃんが頑張って裾にお花とスワロフスキーを散りばめてくれたのよ。どう?」
先ほど写真で見た青い鳥のような、少し紫がかった深い青。そんな青のドレスには、白い花が咲き乱れ、照明に反射するスワロフスキーがキラキラしていた。
「わ、ゴージャス!ミキさんありがとう!この短時間に大変だったでしょ?
私もドレスに負けないように頑張らなくちゃ」
ミキというのは、先程の店長だ。初音にお礼を言われて嬉しそうに笑った。
「ジュンゾウ先生に指示された時は、本気でキレそうでしたが。短時間でかなりの手直し。でも丹下様の為ならお安い御用です。気に入っていただけましたか?」
「えぇ、とても」
試着して、鏡の前に姿を映す。
あの日、泣いてシミだらけにしたドレス。涙のシミはすべてスワロフスキーのきらめきに変わり、悔しさに握りしめて刻まれた皺は白く開花した花になった。見違えるほどに華やかになった。
「大人っぽい黒も良かったけど、やっぱり初音は青が似合うわ。どこまでも広がる空のような無限の可能性を秘めた知性の色。
その派手な顔が一層映えるわ。
自信持って、弾くのよ。ショパンもラフマニノフも、初音のものだから」
「ありがとう、ジュンさん。もう、負ける気がしないわ。
だから…」
初音は、ジュンの耳元で一言呟いた。
ジュンの表情がパッと輝く。