エチュード〜さよなら、青い鳥〜

明日の約束

アリオン・エンタープライズ社、人事労務管理部。昼食後のひととき。

社員食堂から戻った四辻は、コーヒーの入ったカップを手に自分のデスクについた。

休憩時間はまだ残っている。
時間を確認してから、耳にイヤホンをつけた。

流れるのは、過日行われたピアノコンクール二次予選での初音の演奏だ。


イヤホンで聴いていても、あの時の感動が蘇ってくる。
目の覚めるような青いドレスを着てピアノを弾く初音。その輝くような姿も昨日のことのように思い出せる。


音楽が好きだと伝わってくる。
ピアノへの熱い思いが伝わってくる。
そんな演奏だった。




ーーこの素晴らしい音楽を弾ける幸せを、聴いてくれるあなたと共有したい。届けたい。
ショパンが好き。
ラフマニノフが好き。
ピアノが好き。
そして、今ここで聴いてくれるあなたが好きです。



現に、観覧席の人たちは身を乗り出すようにして初音のピアノに聴き入っていた。みんな、初音からの愛の告白を受け取ったように、嬉しそうに目を輝かせていた。

思わず、嫉妬したくらいだ。彼女からの愛は、自分一人だけが受け取りたいと。音楽に嫉妬したところで意味ないとわかっていても。




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