エチュード〜さよなら、青い鳥〜
「社長、四辻です」

社長室をノックする。

「どーぞ」

力の抜けた返事が室内から聞こえた。

「失礼します」
「昼休みに悪かったね」
「いえ」

社長は手にしていた書類を机の上に放って、四辻を迎える。

「悪いんだけど、明日また運転手頼めるかな。
午前中外せない仕事あってさ、また、初音を送った後迎えに来てくれないかな?」

「分かりました」

明日は初音のピアノコンクール本選だ。四辻は、頭の中で所要時間を計算する。リハーサル等の時間を考慮しても、往復して充分間に合うはずだ。

「親父もまた行くって言ってたから。
親父、四辻くんのこと、ピアノ好きの感覚が似てるとか言って、えらく気に入っててさ。同じ目線で語れるって喜んでたよ。合わせてくれたの?」

「いえ。失礼ながら、アリオンの会長ということを忘れ、ただのピアノ好き同志みたいに夢中で語ってしまいました」

「なるほどねー。親父偉くなりすぎて、なかなか同じ目線で話せる相手居なくなったからなぁ。嬉しかったみたいだよ。
ピアノ好きのただのジジィと思って、これからも付き合ってやって」


社長がそうつぶやいた時。社長室のドアがノックされ、秘書が現れた。

『社長、株式会社COOGAの久我様がお見えです』

「え!あ、もう時間か!
悪い、四辻くん、親父と明日の時間と待ち合わせ場所決めておいて。親父、今ならアリオンの会長室にいる。この電話使って。短縮2番で繋がるから。よろしくね!」

四辻の返事も聞かず、社長は慌ただしく秘書と出て行った。


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