エチュード〜さよなら、青い鳥〜
ーーいつも、いつでも最高の音楽に囲まれていたい。最高の音楽といえば、『アリオン』。
だから、就職もアリオン以外考えられなかった。
アリオンの採用実績を調べて、一番採用人数の多かった慶長大学に進学した。アリオンの御曹司でアリオンエンタープライズの社長、丹下広宗を教えたという教授のゼミに入り、アリオンに勤めている大学先輩とコネクションを作った。
四辻の情熱が通じて、無事アリオンに勤めることが出来た。
それからは、仕事が楽しくて仕方なかった。仕事と音楽があれば、満たされていた。
そんな四辻の前に、陽菜が現れた。
陽菜はいつも忙しい四辻を気遣い、ワガママは言わない。仕事の後、一緒にご飯を食べたり、映画を観たり。休みの日は疲れてるでしょ?と無理に誘うようなこともしない。
いつでもただ笑って話を聞いてくれて、側にいてくれる、優しい存在だった。
順当に行けば、次の人事異動で四辻は昇格すると言われた頃、やけに陽菜が結婚を匂わせてきた。
『涼、一緒に暮らそ?私、子供が大好きなの。早く欲しいから、準備しよう!』
正直、音楽と仕事があれば、それだけで満たされていた四辻にとって、家族を持つことは考えたこともなかった。
だが、悩む間も与えず陽菜はどんどん妄想を膨らませていく。そんなに結婚したかったのかと気づき、四辻も前向きに考え始めた矢先だった。