魔女と王子は、二度目の人生で恋に落ちる。初恋の人を生き返らせて今度こそ幸せにします!
「ほんっとうに、すみませんでした!」

 静かな聖樹の森、私たちが住んでいるログハウスに謝罪の声が響き渡る。

 声の主は、先日迷宮で私とウィル様が罠にかかるきっかけを作ってしまったリクア。
 テーブルの上におでこを擦り付けるほど頭を下げ、正面に座っている私たちからは彼の赤みがかった茶色の髪しか見えない。

 彼の隣には、錬金術士の師匠であるクラフトさんもいて、同じく謝罪の言葉を口にした。

「うちのリクアが迷惑をかけた。謝罪して許されることではないが、本当に申し訳なかった」

 深々と頭を下げる師と弟子のダブル謝罪に、私は焦って両手を振る。

「いえいえいえ!助かりましたから!それに二十二階層からの罠であれば、それほどおそろしいところには飛ばないというか……とにかく頭を上げてください!」

 ウィル様も二人の謝罪を受け入れてくれた。
 私たちが罠から生還した後も、リクアはきちんと謝ってくれたのだ。シェルダさんにも本気で叱られたみたいだし、今となってはもう思い出すほどのことでもない。

「いや、迷宮は何があるかわからない場所だ。それなのにこのバカ弟子は……!今、根性を叩き直している最中だ」

 クラフトさんは50代のベテラン錬金術士で、エリクサーを作れるこの街で唯一の人。ギルドからの信頼も厚い有名人に頭を下げられ、私は恐縮してしまう。

「謝罪はわかりましたから。それにいっぱい品物もいただきましたし……!」

 玄関には山のように積み上げられた魔法道具や薬の素材、高級な布などが置かれていた。朝一でタマゾンさんが運んできたときは、一体何事かと思ったわ。

「もう水に流しますから。これ以上のお気遣いは不要です」

 隣に座るウィル様を見上げると、彼もうんと頷いてくれた。



 こうして謝罪は無事に終了したのだが、リクアの処遇に関して、クラフトさんから思わぬ提案があった。

「ウィル殿、リクアを鍛えてやってくれないか?厚かましいと思われるかもしれんが」

 私たちは二人してきょとんとしてしまう。

 リクアを、鍛える?
 錬金術士は基本的に魔導士や薬師に近い。魔女とも似て非なるもの、といった関係だ。

 そのリクアを鍛えるとは?私たちはクラフトさんの真意がわからず、返答に困る。

「実はリクアは錬金術の腕はすでに一流だが、エリクサーなどを作れるようになるには研鑽(けんさん)値が必要になってくる」

「研鑽値?」

 クラフトさんによると、研鑽値とは冒険者でいう経験値のようなもので、迷宮に潜って戦いながら素材を集め、その場でアイテムや薬を作ることでしか得られないものらしい。

「リクアは魔術が使える。探知の感覚も優れている。だがそれだけでは、錬金術士としてはこれ以上の成長が見込めず、おととしから迷宮に潜ってるんだが、どうにも物理攻撃がヘタでな」

「あぁ、確かにそうですね」

「剣や拳でしか倒せない魔物もいる。そいつらの素材は冒険者に頼めばいいと思うかもしれないが、実際に現物を見て狩りをすることでしか学べないもんもあるんだ。よその錬金術士はどうだが知らないが、うちでは弟子に実戦させることにしている」

「それでウィル様に、リクアを鍛えろと?つまり剣を教えてってことですか?」

 クラフトさんは頷いた。
 剣を教えるのであればハクでもいいのでは、と思ったが、ハクは黒狼獣人だからそもそもの力の使い方が人族のそれとは異なり、なるべく人族に教わりたいと考えているという。

 本人はどう思っているのか気になったけれど、リクアが納得するしないにかかわらず、師匠のいうことが絶対であるのは厳しい修業をしてきた私には予想できた。

 反論の余地なし、絶対命令。どこの世界も師弟関係とはそういうものである。

「リクア、ウィル様に剣を習いたいの?」

「……あぁ、俺はどうしても強くなりたいんだ」

 目を見ると、どうやらやる気はあるらしい。、
 ウィル様はいい人だから、「俺でよければ」と言ってすんなり引き受けた。

「リクア、よろしくな」

 にこっと笑ったウィル様は、まったく彼のことを嫌っても怒ってもいないようだった。さすがは白い魂の人、器が大きい。

「あぁ、よろしく……」

 リクアはウィル様の言葉に、めずらしく素直に返事をした。

「絶対にウィルより、ユズより強くなるから」

「あの、私魔女なんだけれど」

 私を目標の一部に組み込むのはやめてほしい。
 それに私が持っているのは剣ではなく杖だ。剣士ではない。普通の魔女なのよ!?

 クラフトさんはぽかんとする私を見て、クックッと笑っている。

「しばらくリクアをここに通わせる。次にあんなバカなまねをしたら破門だと言ってあるから、安心して迷宮にも連れていってくれ」

「わかりました。俺にできる限りのことはします」

「ウィル様……!」

 優しい。面倒見のよさは弟が二人いたからなのかな。
 私もウィル様のお手伝いをしよう、そう思った。
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