【完結】警察官な彼と危険な恋愛白書

 
 若葉さんには、こんなこと言えない……。言えばきっとまた、傷ついてしまうかもしれない。

 「若葉さん!」

 「はい?」

 でも事情聴取の件は言うしかない。

 「今山崎から連絡があって。……また若葉さんに、話を聞きたいそうです」

 「……はい。分かりました」

 若葉さんは小さく頷いた。

 「すみません。……容疑者は浮かんでるのですが、その……」

 「……なんですか?」

 若葉さんは心配そうに俺を見つめていた。

 「あ、いや……」

 「……言ってください。裕太さん」

 「……実は、事情聴取をした容疑者。アリバイはないのだけど……」

 「……はい」

 「若葉さんが言っていたその、タトゥーや入墨らきものは、見あたらなかった……って」

 「……そうですか」

 ふたりの間に、しばらく沈黙が続いた。聞こえるのは、水道の蛇口から流れる水の音だけ。

 若葉さんは、黙ったまま食器を洗う手も止まっていた。

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