生まれ変わっても義弟は許してくれない。
今世の話。
これが私の物心つく頃からある、幸せでどこか歪んでいた前世の記憶。
これは一部に過ぎない記憶だがやはり最愛の義弟との別れはどの記憶よりも鮮明に残っているようだった。
そして今世。
私の今世での名は前世と同じ、綾。名前と同じように前世と同じ莫大な資産を持つ名家の1人娘ではなく、ごくごく一般的な家庭で2歳上の姉を1人持つ、女子大生。
歳は死んだあの時と一緒の20歳だ。
見た目は面白いことに名前と同じように前世と全く変わらない。真っ直ぐな黒髪に真っ黒な瞳。人より少し整った顔立ちをした女。
育った環境だけは前世と全く違うが、まるで前世の続きを生きているような感覚を今現在味わっているところだ。
「で、彼が私の高校の時の後輩の優くん」
私の大学からの友人である桃がたまたま街で会った高校の後輩らしい男を私に紹介する。
彼の顔を見た瞬間、私に衝撃が走った。
「桃さんの後輩の優です」
張り付いたような笑みを浮かべてこちらに手を差し出す、優と名乗った男。
彼の見た目はふわふわの柔らかそうな黒髪にこの世のものとは思えない程整った美しい顔、そして何よりも目を引く長身。
知っている。彼は前世の義弟だ。
「は!初めまして!」
嬉しい!まさか義弟に会えるなんて!
嬉しさのあまり声が思わず上ずる。抱きしめたい衝動に駆られたがそれを何とか寸前の所で押し殺し、せめて前世と同じようにと、彼に目一杯笑いかけた。
「桃の友達の綾です!」
それから今度は名前を名乗って義弟の手を握る。彼の大きな手は前世と何も変わらずまた私は嬉しくなった。
「初めまして?」
そんな私の手を義弟はぎゅっ!と強く握り返し、とんでもなく低い声を出す。
「いっ!」
「痛い?だろうね」
痛くて思わず振り払おうとしたが義弟はそれを許さない。
「だけど僕はもっと痛かったよ、姉さん」
張り付いたような笑み。あの頃と何一つ変わらない。
義弟には前世の記憶があるのか?
「忘れたなんて言わせない。僕はまだ姉さんを許していないんだよ」
目から光が消えている義弟の最後の一言で私はすぐに悟った。
彼には前世の記憶があるのだと。
嘘でしょ。
義弟に記憶があったこと自体は非常に嬉しい。また巡り会えてこれはもう奇跡に違いない。
が、義弟はこう言ったのだ。
私を許していないと。
いや、確かに「許さないでね」とか言ったけどさ!まさか生まれ変わってまで怒ってるとは思わないじゃん!
何でせっかく再会できたのに義弟は怒っているの!
私は義弟が大好きだ。愛している。
だから義弟に許されるその日まで。私は義弟の望む形で義弟に許しを乞い、尽くそうと思う。