生まれ変わっても義弟は許してくれない。
今世の話。
これが僕の物心つく頃からある、義姉を失ってしまった前世の記憶。
これは一部に過ぎない記憶だがやはり最愛の義姉との別れはどの記憶よりも鮮明に残っている。
そして今世。
僕の今世での名は前世と同じ、優。名前と同じように前世と同じ環境では育たず、ごくごく一般的な家庭の1人息子として育ち、今年、高校3年生になった。
歳は義姉を失ったあの時と同じ18歳だ。
見た目は面白いことに名前と同じように前世と全く変わらない。ふわふわな柔らかい黒髪に真っ黒な瞳。自分から見てもこの世のものとは思えないほど美しい顔。前世の義姉がずっと可愛がっていた美しい僕。
育った環境だけは前世と全く違うが、まるで前世の続きを生かされているかのような感覚を今現在味わっているところだ。
僕が生まれ変わっているのなら義姉も生まれ変わっているのではないか。
そう思った僕はずっと義姉を探し続けた。そうして僕はついに義姉を見つけたのだ。
義姉は僕の高校の先輩の友人だった。
「で、彼が私の高校の時の後輩の優くん」
高校の先輩である桃さんが僕を義姉に紹介する。
彼女たちは僕とたまたま街で出会ったと思っているだろう。だけどそれは違う。僕は彼女たちがここに来ることをあらゆる手段を使って知っており、ずっと彼女たちを待っていたのだ。全ては義姉に会う為、そして義姉に僕を認識させる為に。
「桃さんの後輩の優です」
前世と同じように笑顔の仮面をつけ、義姉に手を差し出す。
義姉は僕の姿を見て驚いたように目を見開いた。
あぁ、やっと。やっとだ。僕はやっと義姉のその美しい瞳に捉えられた。
長かった。まるで永遠に閉じ込められてしまったかのような感覚さえあった。
「は!初めまして!」
僕に出会えたことが嬉しかったのか、義姉の声が可愛らしく上ずる。そして前世と同じように、僕に女神のような美しい笑みを向けた。
だけどそんな義姉の言葉が僕の心を騒つかせる。
初めまして?
そのリアクションは僕に会えて嬉しいからじゃないの?僕のことを知っているからじゃないの?
何故、初めましてだなんて他人行儀なことを僕に言うの?
「桃の友達の綾です!」
そんな僕のことなんてお構いなしに義姉が僕の手を握り返してくる。僕の手の中にある柔らかく、小さな手は前世の義姉のままで。
「初めまして?」
僕はにこにこと笑い続ける義姉に腹が立ってぎゅっ!と少し強く義姉の手を握り、低い声を出す。
「いっ!」
「痛い?だろうね」
義姉は僕から与えられた痛みからか思わず僕の手を振り払おうとした。が、僕はそれを許さない。
「だけど僕はもっと痛かったよ、姉さん」
張り付いたような笑み。前世と何も変わらない。
義姉はそんな僕を探るような目で見つめる。
僕が義姉に負わされた心の痛みはこんな優しいものじゃない。あの日から寿命が尽きるまで僕は死んでいるように生きていた。今すぐ義姉を追って死にたかったが周りがそれを簡単に許すはずがなかった。
それこそ永遠の時を生かされている気がして気が狂いそうだった。いやきっとあの時、義姉を失ってしまった瞬間、そして今世でさえも僕の気は狂っている。
「忘れたなんて言わせない。僕はまだ姉さんを許していないんだよ」
低く、静かに義姉を責めれば、義姉はまた驚いた様子で目を見開き、大きく瞬きをした。
僕は確信している。
義姉には前世の記憶があるのだと。
あぁ、何て僕は幸福なのだろう。
あの時失った最愛の人と再び巡り会えたのだ。
義姉は前世、最期に僕にこう言った。
私を許さないでね、と。
その言葉を利用させてもらおう。
義姉は誰よりも優しい。そして誰よりも弟である僕を愛している。
だから僕に許されるその日まで。僕の望む形で義姉は許しを乞い、僕に尽くすだろう。
そうして今世の僕たちは寿命で死んでしまうまで一生一緒に居続ける。
あぁ、本当に僕は幸せだ。
前世の分も含めてせいぜい一生懸命償ってね、姉さん。
僕は貴方を一生許さないから。