いつか夏、峰雲の君
陽の光が天上から降り注ぐころ、小川をまたぐむき出しの石橋を渡り、僕らはそこへ辿り着く。
稲荷坂、見上げても届かない山への入り口。何重にも立ち並ぶ朱色の鳥居が、まるで潜れと言わんばかりに僕らをそこへ誘うのだ。
腰を落とし、ハンドルに力を込めた。30度にも及ぶ勾配、そこにたどり着くまでの500メートルを僕は噛みしめるように上っていく。
不格好に傾く鳥居を一本、また一本と潜り抜け、そこを彩る朱の影を踏みつけた。
やがてそこから見た景色。遥か足元、あんなにも大きかった村が、親指と人差し指で作る長方形の中に納まっていたのだ。
遥か彼方に見えるは、海——
「見て登吾くん! 峰雲——」
その時彼女に聞いた話。夏雲の一生、それは限りなく短いと。
始まりの海から上昇気流に乗り空へ上る200万トンもの水は瞬く間に膨れ上がり、夏の空に白い花を咲かせる。
だがあまりにも巨大な雲は自らの巨体に耐えられなくなり、だんだんと沈んでいくのだ。
やがて自壊した雲の一部は夕立となり、人々の世界に降りそそぐ。
いずれ雲は川を流れ海へと返り、そしていつかまた空へと……
その時の彼女は、それをまるで自分の事の様に話していた——