いつか夏、峰雲の君
白秋
秋——金色に輝く稲と紅蓮に咲く彼岸花が村を彩り、そして消えた。
水が枯れ、芳醇な土の香りを嗅ぎ付けたオケラが、待ってましたとそこを掘る。
そして山が微かに色づき始め、来るべき冬へと皆が備え始める頃、夏希はあの坂を上りたいと言わなくなっていた。
「銀杏だよ。あれが臭すぎるから、夏希は近づけねぇんだきっと」
と勝平はおどけるが、多分あいつは拾った銀杏の実を食べたいだけだろう。
稲荷を守る、鎮守のイチョウ。
気が付けば僕たちは鼻を摘み、そこに転がる秋の落とし物を次々と拾い上げていた。
きっと今年も勝平は、銀杏を食べ過ぎて腹を壊すのだ。