いつか夏、峰雲の君
……もともと雲母村に来たのも、病気の療養のためだと夏希は言った。
今まで病院から離れて生きていけなかった彼女の病気が、奇跡的に回復したのが一年ほど前。
一時退院が認められ、疎開先に選んだのが祖母の住むこの村だった。
両親の気遣いだったという。雲母村の空気が清んでいることも、村の人々も心優しいことも彼女の両親は知ったいたのだ。
全ては夏希のため。彼女の両親は娘と過ごす日常よりも、彼女の思い出を選んだのだ。
そして僕たちは出会ったのだ、あの青い春の始まりに……。
その時芽生えた感情は朱い夏の日差しに咲き上り、僕の心を燃え上がらせる。
やがて来る白い秋。降りしきる時雨の音と共に、僕は理性へと落ちてきたその純白の思いの名を理解する。
その思いの名は、愛——
「ねぇ夏希——」
そして来たる玄、それは光が最期に残す冬空の色。地平線に旅する太陽を見送る時、彼が歩いた後に残る優しくて温かな混濁の闇だという。
希望と終わり、そして完成。
青も朱も白も、最後には玄へと染まってしまう……。
けどきっと、最後に残った玄はとても美しいのだと思う。それは自分の人生に描かれた、様々な思いが塗り重なってできた玄なのだから。
——だから僕のこの思いも、完成させなければいけない。