いつか夏、峰雲の君
雨の傷が癒えつつあった翌年の夏。何故か中等部の教室に入ってきた釜倉先生に連れだされ、僕はその事実を告げられる。
鉛の様に重く弾丸のように鋭い、シンプルな事実。
——夏希が亡くなった。
その一瞬、背筋の中を悪寒に似た何かが走り抜け、本当に目の前からすべての光が消えるのを感じた。
脳がその語彙を読み解き、魂がそれを拒絶する。その時の僕は、ただひたすらに衝動と超自我の狭間で揺れ動いていたのだ。
衝動は硬く耳を閉ざし、叫んでいる。
超自我は滝の様な涙を流しながら、受け入れろと耳元でささやき続ける。
怒り、悲しみ、逃避、理解。様々な感情が精神の中でぶつかり合い、そのたびに僕の心の根幹にある大切な何かが砕けていく気がした。
「お別れ、言ってきてやれ。学校には俺が話しておく」
その晩、僕は雲ばぁに連れられ東京に向かった。