だから私は、今日も猫を被る。
「美織ちゃんは?」
リビングへ着いて声をかけると、
「今、寝ちゃってて」
言ったあと数秒間を置いて、「…泣き疲れたのかな」と無理をして笑顔を浮かべた早苗さん。
「……そう」
私は、それ以外何も返事ができなかった。
だって美織ちゃんが泣いたのは、間違いなく私のせいだと思ったから。
「ほら、そっち立ってないでこっちに座って話そう」
先に椅子に座っていたお父さんが、私と早苗さんに声をかける。
私は言われるがまま、椅子に座る。続けて早苗さんも。
「まず、何から聞けばいいんだろうか」
口を開いたお父さんは、困惑したように眉尻を下げながら笑った。
こういうとき誰が話せばいい? 当事者の私? それともさっき言い合いをしていた早苗さん?
「あの」
冷え切った空気を一刀両断するかのように、声をあげた早苗さん。
私は、お父さんから早苗さんへ視線を移した。
「七海ちゃん、これ」
私のテーブルの前にそっと置いた。
「えっ……」
私は、思わず声をもらす。
どうしてこれ……
「全部のビーズを見つけることはできなかったんだけど…」
おもむろにそれを掴んで、見つめる。
「……直して、くれたの?」
早苗さんを見ると、申し訳なさそうに笑っただけで頷きはしなくて、
「七海ちゃんが大切にしていたものとは違って完璧には修復できなかったけどね」
確かにお母さんからもらったものよりも少し短い。
それはきっと、千切れた糸からビーズが抜けたから。
けれど、確かに修復されていて──
私は思わず、それをぎゅっと握りしめて
「……ありがとう」
痛いほどに早苗さんの感情がブレスレットから伝わってきた。