だから私は、今日も猫を被る。
「…なんか、すみません」
「いーよ。べつに思い出してもらおうと思って打ち明けたわけじゃないし」
「じゃあ、なんで…」
「ずっと嘘ついたままでいるのも嫌だなと思ったからさ」
確かに先輩は、私との出会いを偶然だと言ったことを思い出す。
「……罪悪感に耐えかねてってことですか?」
思わず口をついて出た疑問に、あお先輩が私を見る。
「それもあるけど、妹のこと話したからには全部打ち明けた方がいいかなと思って。だけど、ほんとはSNSやるつもりなかったんだけどね」
「え?」
「妹のことでトラウマっていうか、だからあんまりそういうの得意じゃなくて」
顔は少し青ざめているように見えた。
「でも」言いかけた先輩に、真っ直ぐ目を向けると、
「七海を救いたかったから。妹みたいに何か悩んで、誰にも打ち明けられないなら。俺が力になってあげたいと思ったんだ」
「あお先輩…」
「でもだからって七海が何かを気にする必要はないんだからね」
落ち着いた声色で言って、口元を緩めた。
けれど、無理して笑っているようには見えなかった。
だから、ごめんなさい、の代わりに私は、
「……ありがとう、ございます」
そう言うと、いーよ、と言って私の頭を撫でた。
「それとさ、七海。今日時間ある?」
ふいに話題が切り替わり、それに追いつけずに、え、と困惑していると、
「ちょっとついて来てほしいなと思って」
「え? えーっと…」
今日の予定は何だったかなと掘り返すけれど、お迎えはないことを思い出し、
「…大丈夫、ですけど」
おずおずと答えると、
「じゃあ放課後、付き合って」
落ち着いた表情で私に言った先輩。
「放課後ですか?」
「うん」
「……わかりました」
首を傾げながら、それを承諾すると、何事もなかったかのようにパンを食べ進めた先輩。