だから私は、今日も猫を被る。
10.痛む心
『今から屋上へダッシュ』
お昼休みになるや否や、あお先輩からメッセージが入った私は屋上へと駆け上がる。
お弁当を抱えながら、ハアハア、と肩で息をしていると
「ほらこっち」
と言って自分の隣をポンポンっと叩く。
全然頭が追いつかずに困惑していたけれど、とりあえずそこに腰を下ろした。
「来るの早かったね」
「え、あ…たまたま近くにいたので…」
バツが悪くなった私は、一瞬で顔が青ざめた気がして居心地が悪くなるが、隣で何の気にも留めていないあお先輩は、
「ふうん、そっか」
相槌を打つと、パンの袋を摘んで両手で引っ張って食べ始めた。
教室にいたときにスマホに連絡が入り、メッセージを読んだ私は一目散に駆け出して今に至る、なんてそんなことバレたくなかったんだもん。
隣でパンをかじるあお先輩を横目に、膝の上でお弁当をパカっと開けると、卵焼きをお箸で摘んでひと口かじる。
甘さが身体に浸透して少しホッとすると、緊張がほぐれる。
「あお先輩は、なんでメッセージくれたんですか?」
隣へ視線を向けると、ゴクリと飲み込んだ先輩の喉仏が上下に揺れる。
「分かんない?」
なぜか質問で返されて、え、と気の抜けた声をもらした私。
質問をしているのは私なのに……
いいえ、と首を横に振って答えると、
「じゃあ教えてやんない」
「えっ……?」
「自分で考えて」
適当にあしらうとパンをかじった先輩。
今教えてくれる流れだったよね。
本気で答えないつもり……?
私の中にもやもやと消えていない炎が燻(くすぶ)っているようで、うーん、うーん、と頭を捻っていると、フッと隣から笑いがもれる。
隣へ視線を移せば、
「そこまで真剣に悩まなくてもいいのに」
口元を緩めていたあお先輩が視界に映り込む。
その瞬間、始めから答えるつもりだったんだろうなと理解する。