だから私は、今日も猫を被る。
11.光と影
今日の夜ごはんは家族団欒でテーブルを囲んでいた。
それだけを聞けば誰もが仲睦まじい姿を想像するだろう。
「おお、今日はみんな揃ってごはんか。久しぶりだな」
「ええ、そうよね」
言いながら、テーブルにおかずやお味噌汁を並べていく早苗さん。
「パパぁ、あとであそぼーっ!」
「そうだな。あとで遊ぼうな」
その傍らで、お父さんと美織ちゃんが楽しく会話をする声が聞こえて、それに微笑む早苗さん。
そこだけが切り取られたように、私がいるキッチンとは別世界のように見える。
私の目の前に広がる光景は、まさしく家族団欒の姿で、父親と母親からたくさんの愛情をもらう娘の絵図だ。
そんな光景が視界に映り込むたびに、私はため息一つついたのだ。
「七海ちゃん手伝ってくれてありがとう」
ふいに早苗さんの声が聞こえた私は、ハッとして途端に笑顔を取り繕うと、
「ううん大丈夫。…あ、あとこれで最後だよ」
「ありがとう」
私からお皿を受け取ると、それをまたテーブルへと運んだ。
私たちの事情を何も知らない人が見たら、ふつうに仲の良い家族だと思うだろう。何も問題はないと思うだろう。
けれど、そこに私は含まれることはない。
だって私だけが別世界にいる。
真っ暗な空気に取り囲まれて身動き一つできない。
そこから抜け出すこともできない。
三人がいるリビングだけがスポットライトに照らされて、私はそこへ歩み寄ることもできない。