だから私は、今日も猫を被る。
「──七海ちゃん」
呼ばれた声に意識を戻すと、
「立ち止まってどうしたの?」
私を心配そうに見つめる早苗さんと視線がぶつかった。
濁りのない瞳で真っ直ぐに私を見つめる。
心配したように下がる眉尻。
……やめて、私をそんなふうに見ないで。
そうじゃなきゃ私が惨めになる。
私だけが罪悪感でいっぱいになる。
そんな感情を押し込めて、
「……なんでも、ないよ」
首を振って笑うと、何事もなかったかのようにテーブルへと向かった。
「よし。それじゃあ食べるか」
お父さんの言葉を合図に、手を合わせてみんなでいただきます、と言った。
美織ちゃんは、いたーきます、と元気よく笑った。
私も笑う。みんなと同じように。
けれど、心の中はズキズキと痛み、黒い感情で覆われそうになる。
「ママこれおいしー」
美織ちゃんがスプーンで頬張りながら、そんなことを言う。
ああ、とお父さんは頷いて、
「確かに早苗のカレーは絶品だなぁ」
美織ちゃんの言葉に同調すると、ニコニコ笑っておいしそうに食べる。
そして、
「七海もそう思うだろ?」
「……あ、ああうん。おいしいね」
一口目で止まっていたスプーンを慌てて動かすと、二人のように頬張ってみる。
早苗さんの料理はおいしい。
ほんとに文句のつけようがないほどに絶品だ。
もちろんそれは嘘ではない。
それなのに私は心から素直においしいと言うことができなかった。
いつも心はどこか別の場所へいっていて、感情のこもっていない言葉を吐く。
その場の雰囲気を読み取ってみんなに合わせるのだ。
「なみちゃんもおいしー?」
「…うん、おいしいよ」
美織ちゃんに尋ねられて、笑って返事をすると、そっかあ! とニコッと笑った美織ちゃんは、口いっぱいにカレーを詰め込む。
美織ちゃんの机の周りはポタポタといくつもカレーの足跡が落ちていた。
「美織、こぼしてるわよ」
言いながら、口の周りを拭いたりテーブルを拭いたりと、自分の食べることはそっちのけの早苗さん。