だから私は、今日も猫を被る。


部屋に戻ると、一気に全身から力が抜けてドアにもたれるように座り込む。

膝を抱えて、顔を俯かせる。

こんなつらい目に遭うんだろう。
神さまは不公平だ。
七年前にお母さんが亡くなってから私の人生の歯車は狂い出した。


「……お母、さん……っ」


ポツリともれた声は、部屋の中で弾けて消える。


──ふと、七年前のことを思い出す。

お母さんは病気だった。
それもタチの悪い“がん”だった。
でも私はそれに気づくことはできなくて、気づいたときにはもう手遅れだった。


初めはただの検査入院だと思っていた。
いつも家の中でのお母さんは元気いっぱいで笑顔は欠かさなかったから。
私は、それを信じて疑わなかった。

だから病気が見つかったときは、すごく落ち込んだ。
誰よりも私自身が……。
お母さんのそばに誰よりもいたのは私なのに、病気に気づいてあげることができなかったの。

入院するって決まったときだって、私は一ヶ月もしないうちに退院できるものだと思っていた。
けれどまさかそんなに伸びるとは思っていなかった。


『七海の誕生日はみんなでお祝いしようね』


お母さんは、そう言ってくれていた。
だから私もそれを信じて、私の誕生日前には退院するものだと思っていた。
けれど、入院日数が伸びた。それは一ヶ月、二ヶ月、そして気がつけば一年の半分をお母さんは病院で過ごすことになった。

だから私の誕生日を家族で過ごすことは叶わなくて。
その代わり、お母さんは病室で私にブレスレットを作ってくれた。
青と水色、透明な色を組み合わせて私をイメージして作ってくれたらしい。
──七海の"海"をイメージしてくれたってお母さんは言ってた。
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