だから私は、今日も猫を被る。


お母さんはビーズを使って、ブレスレットやネックレスを作るのが趣味だった。
家にいたときもそれを作る姿を隣でよく見ていたの。
幸せそうに顔をほころばせながら、作るあの姿が忘れられない。
私はその姿を見ているのが幸せだった。


病気が見つかって入院してしまっても、お母さんはいつも笑顔だった。
ほんとはすごく身体がつらいはずなのに、私がお見舞いに行くと必ず笑顔だった。
入院しているときに一度だけ『つらいなら笑わなくていいんだよ』って言ったことがある。
けれどお母さんは『無理してないわよ。七海が来てくれてほんとに嬉しいから笑うの』と答えたの。

それからは何も言えなくて、日に日に細くなるお母さんを毎日目の当たりにしてきた。

お母さんが心の底から笑ってくれるのならそれでもいいのかもしれないと思ったんだ。
けれどそれは、もしかしたらお母さんの強がりだったのかもしれない。
笑顔の仮面を被ることで私に心配をかけなくて済む、そんなふうに考えていたのかな。


美織ちゃんにあげたあのブレスレットは、お母さんが必死になって作ってくれた私にとって世界に一つだけのプレゼントなの。

だから──。


「返して……っ」


瞳から溢れ落ちる涙は頬を伝って、洋服にしみをつくってゆく。
一つ、また一つと雫が溢れるたびに私の心が削れていくようだった──。
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