だから私は、今日も猫を被る。
「だってさ、仲直りすることだけが正解じゃないんだし」
「え?」
「仲直りしたからって全てが元通りになるとは限らないでしょ」
「それはそうかもしれないですけど…」
まさかあお先輩がここまで真剣に相談に乗ってくれるなんて思っていなかった。
そういえばSNSでやりとりをしているとき、人間関係に悩んでるって言ってた。……それともただ単に私に話を合わせてくれただけ?
「じゃあ、あお先輩なら友人と喧嘩してしまったらどうしますか?」
「俺?」
「あっ、もちろん例え話です!」
誤解のないように言葉を付け足すと、分かってるよ、と口元を緩めた先輩。
「んー」と言ってしばらく考えたあと、
「まあ俺の場合、喧嘩したら多分それきりだろうね」
想像以上に淡白な答えが返ってくる。
「…絶交ですか?」
「いやべつにそこまでじゃないけど、自分からは話さないと思う」
淡々としゃべる先輩は続けて、
「まあ、人それぞれ考え方も思いも違うし、十人いれば十通りの考えがある。十人十色って言葉もあるくらいだからね」
忘れていたのを思い出したかのようにコーヒーを片手で掴むとそれを一口飲んだ。
十人いれば十通りの考えがある。
確かにその通りかもしれない。
けれど、果たして私はその十人のうちに入るのだろうか。
あお先輩の横顔を見つめたまま考えていると、
「だから七海には七海の考えがあるだろ?」
「え、えと、はい」
コーヒーに向いていた視線がいきなり私へと移ったから、ぶつかった視線にどきどきした。