だから私は、今日も猫を被る。
「じゃあそれでいいんじゃない」
あまりにもさらっと返されて、一瞬反応が追いつかなかった。
「……いいんですか?」
「だって仲直りするのはなんか違うって、七海の中に答え出てるんでしょ」
「え、まぁそれはそうですけど…」
自分の中で答えは出ていると言われると、まだ何か納得できないような気がしてもやもやしていると、
「まあ、それでも仲直りしたいっていうなら自分で何とかするしかないと思うよ」
そう言われて、結局どうすることが一番いいのか分からなくなる。
「うーん、なんか人間関係って難しいですね」
頭を抱えて、ポツリと声をもらすと、
「人間関係って複雑に作られてるからね」
わずかに口元を緩めた先輩。
「…もっと簡単にしてほしいです」
「そうなったら悩みなんてなくて済むんだろうけどね。悩むことによって成長に繋がるわけだから少しくらい悩んだ方がいいんだよ」
「…悩みなんてほしくありません」
不貞腐れたように頬を膨らませると、
「何度も失敗して経験して、そしてそれを糧に人生を歩んでいくのも大事ではあるよ」
「なんか、人間関係も奥深いんですね」
珈琲豆のようにじっくり時間をかけて焙煎をすれば味に深みが出るように、人間関係も奥が深いようで、面倒くさくて顔を顰(しか)めると、
「俺たちが思っているよりも人との糸ってかなり細いんだよね。だから些細なことですぐにちぎれる」
「すぐに……?」
うん、と頷いたあと、あお先輩は「だから」と続けて、
「一度切れた糸を繋ぎ直すのは、かなり勇気のいることだし確実に成功するとも限らない。仲直りするもしないも七海次第だけど、自分の気持ちを優先してあげないと結果苦しくなるだけだからね」
言葉をまくし立てられた。
「私の気持ち? それってどういう…」
「あとは七海の気持ちに従って動けばいいよってこと」
言ったあと、パンを食べるのを再開させる、あお先輩は、変わらずに、いつもの凛とした雰囲気を保っていた。