だから私は、今日も猫を被る。


笑って誤魔化せるほど心に余裕がなくて、それはきっと、早苗さんの手のひらに置かれている壊れたブレスレットを見てしまったから。


「ほら美織もちゃんと謝って」


促すけれど、美織ちゃんは早苗さんの足にしがみついたままフルフルと首を振った。


「みおりわるくないもんっ」


三歳児ならこれがふつうの反応なのだろう。


「美織、お姉ちゃんに謝るの」
「やだやだ!」
「美織!」
「やーだあっ!」


頑なに首を振って、床をドンドン踏む。
そのせいでわずかに揺れが足の裏を伝って私へと流れてくる。


お母さんにもらった大切なブレスレットを壊されてしまった悲しみと、苦しみが、私の仮面を剥いでいく。

美織ちゃんにあげるとき、

『大事にしてくれる?』
『うん!』

ちゃんと、約束したはずだった。
守ってくれると信じて私は、それをあげたのに。

それはまだほんの一週間ほど前の話で。

それなのに私の大切なブレスレットは……


「美織が壊しちゃったんだから、ちゃんと謝らなきゃいけないでしょ」
「みおりのせいじゃないもん!」
「こら美織!」


いい子だった私。
いいお姉ちゃんだった私。
──けれど、もう限界だ。


「……なんで……っ」


二人に問いかけるように振り絞った声は、あまりにも小さくて。
俯いてぎゅっと拳を握りしめて、唇を噛みしめる。

「七海ちゃん?」

心配そうに声を落とす早苗さん。


ゆらゆらと揺れる身体。
鉛のように重たい頭。
のどの奥が苦しくて息がうまく吸えない。
キリキリと胸が痛みだす。


「なんでなの……」


感情の矛先は果たして誰なの? 美織ちゃん? 早苗さん? それとも他の誰か……?
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