だから私は、今日も猫を被る。


「七海、一体何を」
「もう、みんなのこと大っ嫌い!」


お父さんの言葉を遮ると、部屋の中からスマホだけを掴んで、三人がいる前を通り抜けようとする。

けれど、パシッとお父さんに腕を掴まれて、

「ちょっと待ちなさい!」
「離して!」
「これはどういうことなんだ!」
「うるさいっ!!」


思い切り腕を振り上げると、パッと離れたお父さんの手。


「もうみんないらないんだから!」


ギリッと睨んだあと、歯を食いしばった私は、玄関を飛び出した。


「七海!」
「七海ちゃん!」

二人の声が重なって聞こえた。

立ち止まることなく走ると、パタンッとドアの閉まる音だけが虚しく響いた。


強く強く握りしめたスマホ。
瞳からはいつのまにか溢れた涙。
のどの奥が苦しくて鉄の味が口に広がる。
どこか切れてしまったのかな。


どこへ行く当てもない。
けれど私は立ち止まらなかった。

もしかしたらお父さんが追いかけて来るかもしれないと思ったから。

逃げなきゃいけない。
どこまでも、どこまでも、遠くへ。


「……みんな、みんな、大嫌い」


走りながら溢れた涙は、横へ横へと流れていった──。

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