だから私は、今日も猫を被る。


ブーッ、ブーッ

──通話音が鳴る。
画面を見つめると、【お父さん】と表示されていた。
でも、今は出たくない。話したくない。
十五秒ほど鳴り続ける。
どうすることもできずに画面を見つめているとプツッと切れる。

ホッと安堵した矢先、ブーッ、ブーッとまた鳴る。

……今はお父さんの声聞きたくない。
ぎゅっと下唇を噛みしめて画面に表示されている【お父さん】の文字を見つめていると、また切れた。

走っているときは電話に気づいていなかったけれど、履歴には私が家を飛び出してから一分間隔で十回ほど電話が来ていて、早苗さんからも何度か着信があったみたい。


でも今は嫌だ。
何も話す気になれない。

どうせ私が責められるだけだ。

だって妹である美織ちゃんを泣かせてしまったのだから。
私の言い分なんて関係なしに責められるに違いない。
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