毱花、慎一、洸介、亜依
数時間後
数時間後


1時間以上たった。

2人がエレベーターに乗り込んだ後、慎一がフラフラと隠れていた場所から出てエレベーターのすぐ近くの壁際に立ったら、女も同じように慎一の横に並んで立った。
女も慎一と同じ立場だともう分かっていた。
お互いの相手は今、部屋で一緒にいる。
2人が出てきたら、すぐ分かるはずのその場所に、待っているのか、何なのか、よく分からないまま、その場所にいるしか出来ることがなかった。
一歩も動けずにいた。

エレベーターが8階《宿泊階》に呼ばれて止まる。
やがて動いて、元のロビーに降りてきた。

扉が開く。
毱花と洸介は、まるでこの世で1番親しい相手みたいに話している。

横の女がふらつき、慎一の腕に縋った。女は絞り出すように彼の名前を呼んだ。

洸介(こうすけ)⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ なんで⋯⋯ 」

彼女が苦しく呟いたのに、洸介は「あれ?」っと簡単に言って近づいてきてから、横に立つ慎一に気付いた。女の手が慎一の腕を掴んでいる。

「は?誰?そいつ?」

と、すごいキツさで慎一を睨んだ。

毱花もホテルの宿泊階行きのエレベーター下で、女と慎一に驚いて真っ青になってショックを受けてる、けど⋯⋯ 。

相手の浮気現場に居合わせ、ただ呆然と立ち尽くしていただけの慎一と女の方が、なぜ、非難されているのか。
浮気した本人たちの方が全く動揺も見せずに、堂々と、逆に慎一たちを真っ向から疑う⋯⋯ 。

「何してんの?」

と、すごい怖い声で洸介が隣に立つ女に聞いた。

「洸介、洸介だって、部屋でその人と⋯⋯ 」

女が言葉が出なくなって泣き出した。
慎一は真っ青な毱花をじっと見ていた。
毱花も言葉もなく慎一を見ていて、涙が浮かんできた。
女がどちらも泣くって、泣きたいのは自分だ。
泣くかもしれない。3人目。

1人、激怒してる洸介が、

「はっ?何言ってんの?」

と彼女の腕をつかんで、俺から引き離した。

「妹と会って、何が部屋で出来んだよ。それより、お前こそ、こんなところで何してんの?だれそれ?」

妹⋯⋯ 。
< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop