毱花、慎一、洸介、亜依
話し合い1
話し合い1


洸介と毱花の親は、2人が小学校の時に離婚し、それぞれ兄は父親に、妹は母親に引き取られて過ごしてきた。
それがこの年になって両親がやり直す、つまり復縁する事になったという。
その話し合いに呼ばれた、と洸介がため息をついた。

「さっきまでの部屋に母さんたちもまだいるよ。婚姻届見せられたけど複雑だよ。この年で、さぁ、家族で一緒に住みましょうって言われてもな。16年前にそうしろよ、と言いたい」

と洸介がため息をついた。

結局4人でロビーのティールームに入って話を続けている。毱花が、

「この年で苗字がかわったら、結婚したと周囲に間違われちゃうから、お母さんにちょっと待ってって思わず言ったわ。お兄ちゃんはいいよ、苗字がかわらないし」

と、洸介に言った。

「俺だって、もう自分の結婚を考える年だぜ?親の再婚に付き合ってられないよ?」

と洸介が言った。

毱花の呑気な悩み。
毱花にとって重大な悩み。
慎一以外と結婚したと疑われる、と。
それ以前に、今、慎一が彼女の浮気を疑って現場を押さえたというこの状況。
慎一の誤解の方がよっぽど重大な事だろうに。
兄とわかった今でも、毱花がお似合いの男と並んでいるだけで、ギリギリと心が軋むほどだ。さっきまでの衝撃と、彼女を自分のものだけにしてしまいたい独占欲と、兄だったという安堵と。

洸介が「結婚」という言葉を発したからか、女がビクッとした。
慎一だって同じだ。
毱花が「結婚したと思われるよ」なんて言ったから、そう、慎一だって毱花と結婚しようと思っていたのに。

洸介が大きくため息をついて言った。

「あーーー、腹立つ。でも腹立つからじゃねぇ。
結婚して、おれと」

洸介が女に一息に言った。

「ずっと言おうと思ってた。もっとロマンチックに、でも我慢できねえわ。非常識な親のさも重大な決断の前に、俺の決断のが先だった!何で今さら、あいつらの家族ごっこに巻き込まれんだよ。俺は亜依(あい)と家族になりたいんだよ」
「うん」

と横にいた女、亜依さん、が頷いた。
それから洸介の胸にもたれかかって泣いた。

こんなプロポーズ、でも心の中からの想いは案外届くんだな、と慎一は思った。
勢いだろうが、タイミングだろうが、どんな状況でも真摯な言葉ほど威力のあるもんはないと思った。
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