シンデレラ・ラブ・ストーリー ~秘密の城とガラスの靴の行方~
第五章
第32話 雪
「ママー、ママー」
娘の呼ぶ声で目がさめた。モリーは、カーテンのむこうに隠れているようだ。もう少し寝かせてくれてもいいのに。
わたしは、天蓋ベッドから降りてカーテンをあけた。
「わっ! 雪ね」
「ゆきー!」
モリーが元気な笑顔を見せる。わたしはカーテンを全開にし、いったん窓辺から離れ、長椅子にすわった。
お城のアーチ型の窓から、しんしんと降る雪を見る。手前のテーブルには、スノードロップの新しい蕾が花ひらいていた。わたしは思わず胸を押さえた。できすぎたぐらい、いい景色。
しばらく、モリーと雪を眺めた。思えばモリーとこうやって、じっくり降る雪を眺めるというのは、はじめてかもしれない。
それから、ふたりでシャワーを浴び、着がえた。この日に用意されていた服は、母娘おそろいのズボンとセーターだ。自分たちに仕立てなおされた服というのは、ほんとうに着心地がいい。モリーが思わず、かけっこするように足ふみしている。気持ちはわかる。動きやすいのだ。
まだ早いが誰かいるだろうと、モリーと下に降りていく。あては外れて、人の気配はない。調理場をのぞいてみたが、そこにも誰もいなかった。
モリーが「おなかすいた」と言う。あなた昨日のパーティーでも、ずっと食べ続けてた気がするけど?
娘の食欲にはおどろくが、なにか作ろうと思った。勝手に使うのは失礼だが、メイド長のミランダは怒らないだろう。パンと卵でも焼くことにした。
「いい匂いがすると思った」
戸口に立っていたのは、誰でもない城主エルウィンだった。この時期になると、急に眠くなるのは聞いたが、逆に寝れない時もあるらしい。
エルウィンの分も用意して、三人で窓ぎわの席にすわった。こんがり焼けたトーストに、たっぷりバターを塗っていると、彼が言った。
「なにやら、前と同じ景色だ」
たしかに、三人で食べるのは二度目だった。でも場所がちがう。
「同じじゃないわ。わたしの家のリビングは、ここのバスルームより、せまいんだから」
「そうかもしれないが、食べているものは同じだ」
わたしは大真面目に、首をふった
「それは同じでも、質が、ちがいすぎる。特に卵とバターは良すぎるわ」
「ママ、オムレツ美味しい!」
となりでモリーが、よろこんで食べている。
「そうね。ちょっと食べたことがないぐらい、美味しい卵ね」
モリーに答えながら、自分も卵を口にいれた。これは高級というより、恐ろしく新鮮なんだろう。風味がはっきりしている。
「そう言われると、僕の努力ではないが嬉しくなるな。卵もバターも、ここの自家製だ」
「自家製! 鶏と牛まで飼ってるの?」
おどろくと同時に、あきれた。
「昔は多くの農作地を使っていたが、いまは、ほとんど放置だ。あの丘のむこうには、牧草地もある」
エルウィンは、そう言って窓の外を指した。
「牛さん見たーい!」
わたしは、モリーをにらんだ。
「昨日、お願いを叶えてもらったでしょ。もう、わがままはだめよ」
「牛舎に行くぐらい、わがままでもない。日が差して暖かくなったら行こう」
動物園ではない生の動物を見るのは、実はあまり機会がない。好意に甘えることにした。
「そうだ、プレゼントがツリーのところにある。あとで行こう」
「プレゼント?」
「昨日は、クリスマスパーティーだ。主催者のモリーへ、プレゼントぐらいは用意するさ」
「あ、あの人数よ!」
「大丈夫。帰りは家まで運ぶから」
いや、家が埋まる。朝から、あたまが痛くなってきた。
娘の呼ぶ声で目がさめた。モリーは、カーテンのむこうに隠れているようだ。もう少し寝かせてくれてもいいのに。
わたしは、天蓋ベッドから降りてカーテンをあけた。
「わっ! 雪ね」
「ゆきー!」
モリーが元気な笑顔を見せる。わたしはカーテンを全開にし、いったん窓辺から離れ、長椅子にすわった。
お城のアーチ型の窓から、しんしんと降る雪を見る。手前のテーブルには、スノードロップの新しい蕾が花ひらいていた。わたしは思わず胸を押さえた。できすぎたぐらい、いい景色。
しばらく、モリーと雪を眺めた。思えばモリーとこうやって、じっくり降る雪を眺めるというのは、はじめてかもしれない。
それから、ふたりでシャワーを浴び、着がえた。この日に用意されていた服は、母娘おそろいのズボンとセーターだ。自分たちに仕立てなおされた服というのは、ほんとうに着心地がいい。モリーが思わず、かけっこするように足ふみしている。気持ちはわかる。動きやすいのだ。
まだ早いが誰かいるだろうと、モリーと下に降りていく。あては外れて、人の気配はない。調理場をのぞいてみたが、そこにも誰もいなかった。
モリーが「おなかすいた」と言う。あなた昨日のパーティーでも、ずっと食べ続けてた気がするけど?
娘の食欲にはおどろくが、なにか作ろうと思った。勝手に使うのは失礼だが、メイド長のミランダは怒らないだろう。パンと卵でも焼くことにした。
「いい匂いがすると思った」
戸口に立っていたのは、誰でもない城主エルウィンだった。この時期になると、急に眠くなるのは聞いたが、逆に寝れない時もあるらしい。
エルウィンの分も用意して、三人で窓ぎわの席にすわった。こんがり焼けたトーストに、たっぷりバターを塗っていると、彼が言った。
「なにやら、前と同じ景色だ」
たしかに、三人で食べるのは二度目だった。でも場所がちがう。
「同じじゃないわ。わたしの家のリビングは、ここのバスルームより、せまいんだから」
「そうかもしれないが、食べているものは同じだ」
わたしは大真面目に、首をふった
「それは同じでも、質が、ちがいすぎる。特に卵とバターは良すぎるわ」
「ママ、オムレツ美味しい!」
となりでモリーが、よろこんで食べている。
「そうね。ちょっと食べたことがないぐらい、美味しい卵ね」
モリーに答えながら、自分も卵を口にいれた。これは高級というより、恐ろしく新鮮なんだろう。風味がはっきりしている。
「そう言われると、僕の努力ではないが嬉しくなるな。卵もバターも、ここの自家製だ」
「自家製! 鶏と牛まで飼ってるの?」
おどろくと同時に、あきれた。
「昔は多くの農作地を使っていたが、いまは、ほとんど放置だ。あの丘のむこうには、牧草地もある」
エルウィンは、そう言って窓の外を指した。
「牛さん見たーい!」
わたしは、モリーをにらんだ。
「昨日、お願いを叶えてもらったでしょ。もう、わがままはだめよ」
「牛舎に行くぐらい、わがままでもない。日が差して暖かくなったら行こう」
動物園ではない生の動物を見るのは、実はあまり機会がない。好意に甘えることにした。
「そうだ、プレゼントがツリーのところにある。あとで行こう」
「プレゼント?」
「昨日は、クリスマスパーティーだ。主催者のモリーへ、プレゼントぐらいは用意するさ」
「あ、あの人数よ!」
「大丈夫。帰りは家まで運ぶから」
いや、家が埋まる。朝から、あたまが痛くなってきた。