人魚、満月に跳ぶ
秋の終わり
「それじゃ」
「うん……」
「またメールするね」
「うん、また…」
車の助手席を降りた美帆に、直人は笑いながらも気のない返事をした。
付き合って一年。
大学卒業前の合コンで知り合い、社会人となって違う職場になっても、毎週こうして必ず時間を作り、交際を重ねていた。
美帆を自宅前まで送り、車を発進させてバックミラーを見ると、美帆が見えなくなるまで手を振っている。
いつもの景色であった。
付き合い始めは、これがたまなく嬉しくて、冗談まじりに美帆についつい催促すると、美帆はそれからずっと、直人の為に手を振って見送った。
また今日も手を振っている。
当たり前になって、新鮮味が薄れた訳ではない。
嬉しいのは確かだが、直人は今、その景色を素直に喜べない事情があった。