地味で根暗で電信柱な私だけど、二十代で結婚できますか?
 在庫のチェックを終えた佐藤さんと既刊本の注文と新刊の部数についての折衝をしていると不意に彼が言った。

「そういえば技術評論書房の山田さんが結婚するそうですよ」
「そうなの?」

 技術評論書房の営業の山田さんは佐藤さんに負けないくらい女子店員の人気を得ていた。一体どうやって彼のハートを射貫いたのかとか相手は誰だろうとかいろいろ疑問が浮かぶ。

 それにしても結婚かぁ。

 まるで流行りもののようにみんな結婚していくことに私の本音が漏れた。

「いいなぁ、私も結婚したい」
「えっ」

 驚いた佐藤さんの声に私ははっとする。

 しまった、佐藤さんに聞かれた。

「結婚、したいんですか」

 やや戸惑い気味に佐藤さんが質問する。

 私はかぁーっと耳まで赤くなっていくのを自覚した。恥ずかしさのあまり倒れてしまいそうだ。

 私が答えずにいると彼は何かを決意したかのようにうなずき、宣言した。

「すみません、三分間だけあんぺあ出版の営業ではない俺になります」
「あ、はい」

 その表情が真剣だったので私は気圧されてしまう。
 
 
 
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