冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
理事長である父は普段は学園に顔を出さないけど、今日みたいな行事の時は必ず来ていた。


先生達のいる席の1番前で座っている父を舞台上からこっそり見た。


パリッとした外国製の高級スーツを着こなす父は若々しくてカッコいいから私の自慢。


普段から特に私に甘くて仲良しだ。


そんな父に恥をかかせないように私は頑張らないといけない。


だけどそう思えば思うほどプレッシャーが重く背中にのしかかる。


私が体育館の舞台のそでで何度もそのつたない文章を読み返していたら、後ろから声をかけられた。


「そこ邪魔」


「はひっ。しゅみません」


ど緊張のあまりにろれつも回らない、かなりヤバイ私。


背の高い怖そうなその男子は威圧感たっぷりに私を見下ろしていた。


彼は黒い上着を着ていて、シュッとしたイケメンだということは認識できたけど、緊張のあまりにパニック状態の私はその場で固まって動けなかった。


彼はそれ以上なにも言わず面倒くさそうに私を押しのけてさっさと舞台中央へと歩いて行く。


そして、眉ひとつ動かさずマイクの前に堂々と立った。


彼は落ち着いた様子で生徒たちのいる方へ一礼してから話し始めた。


そうか、彼は普通学科の代表生徒でこれから挨拶文を読み上げるんだ。


はっきり言って何を話したのかまでは全然覚えていない。
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