冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
難しい言葉を時折交えながらスラスラと話している。


ぜんぜん緊張なんてしていなさそう。


これだけははっきりしてる。


私なんかとは別次元だってこと。


凛としたよく通る低い声で話す彼は自信に満ちている。


その姿はスポットライトを浴びて神々しくさえ見えた。


体育館で、パイプ椅子に座る新入生達は静かに聞きいっている。


その時思った。


ああこういう人が特別なんだ。


本当に選ばれた人って言うのは彼みたいでなきゃいけないんだ。


本来こういう場所にに立つべき人はこんな人なんだ。


私は舞台に立つ彼に一目で魅了されて呑み込まれてしまった。


同時に絶望感が増してきて今にも倒れそうだった。


だってこんな完璧な挨拶のあとで、私があそこへ立って何を話せって言うの?


絶対に無理。


笑いものにされに行くようなものだよ。


学科ごとに1人づつ挨拶なんてすることないのに。


新入生代表は彼1人で充分だよ。
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