冷たい千景くんは10分だけ私の言いなり。
きっと私のことを見下しているに違いない。


海の底に沈む貝のように心を閉ざしかけていた。


だけどそんな私に彼は意外なことを言い出した。


「べつに悪くないじゃん、これ。俺のよりもずっといい」


「ほ、ほんと?」


「ああ。それにこんなに頑張って書いたのに読まないのはもったいない」


「えっ、そうかな」


思いがけず褒めてくれたのでビックリした。


そしたら彼は私の挨拶文が書かれた紙を見ながら一部を読み上げた。


「私達はまだまだ未熟で、発展途上です。

今は知らないこと出来ないことはたくさんあります。

ですがそれは決して自分だけではありませんし恥ずかしいことでは無いのです。

もしも勇気が出ない時は隣の人に頼ってもいいと思います。

私達は偶然隣りにいるわけではないからです。」


彼の声で読まれたら私の稚拙な文章が生き生きと熱を帯びて聞こえた。
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